映像であっても文章であっても。食べ物が美味しそうに描写されている作品は問答無用で好きになる。
よく本屋で目についた小説やエッセイを購入するのですが、タイトルに食べ物が出てくると思わず手に取ってしまいます。
森下典子さん著の『いとしいたべもの』も、そのストレートなタイトルと表紙に惹かれ中身も確認せずに購入した本。
こんなに読んでいてお腹が空いてくる本を、私は他に知りません。
いとしいたべもの
いつも食べていた懐かしい味、特別な日にしか食べられないもの、ずっと忘れられない味。
誰でもなにかしらの食べものの記憶や思い出があると思います。
そんな体験を丁寧で、優しい描写で描いているおいしいエッセイ。読んだ後はじんわり心が暖かくなっているのを感じるはず。
たべものにまつわる記憶
昭和のごちそう、身近だった美味しいもの。このエッセイで多く描かれているのはそんな懐かしい記憶。
例えば昭和時代のごちそうとして描かれている「オムライス」。
明るい黄色と、ケチャップの赤。トマトとスパイスの刺激的な香りと、焼きたての卵の風味が、私を急き立てた。
むちむちしたオムライスにケチャップをのばしながら、スプーンを入れる。ブチッと、薄焼き卵が破れる手ごたえと同時に、中からきれいな橙色のケチャップライスが現れる。
本文より引用
初めてこの本を読んだ時、文章だけでこんなに美味しそうだと感じさせることができるんだ・・とただ驚きました。
もちろん、この一文だけではその描写力の10%も伝わらないかと思います。オムライスを作られるまでの描写、ケチャプをかける様子・・。ちゃんと全部を読んでほしい。
匂いさえ感じさせるような表現で書かれているのにはただただ舌を巻くばかり。
素朴なイラスト
この本の魅力は文章だけでなく、1品ごとに描かれているイラスト。そっと添えられている一言がまたいいんですよね。
素朴に、だけど緻密に書かれたイラストはずっと飽きずに眺めていたくなります。お腹すいてきちゃうけど。
ふとした時に読みたくなる本
懐かしい気持ちになりたい時、元気が欲しい時。何回でも繰り返し読みたくなるエッセイです。
本棚にずっとずっと置いておきたい。私にとってはそんな本。
第2弾も出ています。早くこちらも買ってこなきゃ。